高齢男性に高い頻度で発症する前立腺肥大症は、薬物や手術により治療されます。このうち手術治療に関しては、高周波電流を用いる切除術(内視鏡を用いて尿道から電気メスを挿入して行う経尿道的切除術:TURP)が一般的な術式でしたが、最近では特殊なレーザーを応用した、より低侵襲な治療法が可能になっています。
男性では膀胱の出口に尿道を取り囲むように前立腺が存在し、また尿道が陰茎内を通るため女性に比べて尿道が長く複雑な構造になっており、このような下部尿路および周辺の構造の違いが、女性に比べて男性がより排出障害を来しやすくなる原因と考えられています。(図1)。 前立腺の主な働きは射精時に精子を運ぶ精液を作ることです。前立腺肥大症とは、加齢に伴い前立腺の組織が増殖する良性の疾患であり、悪性の「がん」ではありません。男性の約80%が80歳になるまでに前立腺肥大症を発症するとされています。前立腺の肥大による膀胱出口の通過障害(閉塞)ならびに、閉塞や加齢による膀胱機能の障害により、以下のような様々な症状が引き起こされます。
PVP は内視鏡を用いて経尿道的に行う前立腺肥大症に対する手術療法で、下腹部や陰部を切開することはありません。内視鏡より挿入した石英ファイバーから波長532nmの高出力レーザーを照射し、肥大した前立腺組織を蒸散させて、尿路のつまり(閉塞)を取り除く治療法です。従来の手術療法に比べ、身体への負担が少ないだけでなく、高い治療効果も得られる画期的な治療法で、世界の前立腺レーザー治療の約60%がPVPによるものです。
通常は腰椎あるいは硬膜外麻酔で行い、手術時間は1-1.5 時間程度です。術後は尿道にカテーテルが留置されますが、大多数の症例では24時間以内に抜去できます。ただし術後に血尿が持続する場合や、膀胱機能の低下している症例ではカテーテルの留置期間が延びる場合があります。カテーテルの抜去直後から、症状の緩和や尿勢の改善を感じることができますが、手術後の数週間は排尿中に尿道のヒリヒリした痛みを感じたり、少量の血液が混じった尿が出るなど、軽度の不快感を感じたりする場合があります。また膀胱機能の状態によっては、昼夜間の頻尿や尿意切迫感(急に我慢できないような強い尿意を感じること)が術後も持続する場合がありますが、時間の経過とともにこれらの症状も改善してゆくことが期待できます。
従来より行われてきた標準的術式である経尿道的前立腺切除術と比べた場合、PVPは以下に示すいくつかの利点を有します。